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ようやく間抜けな鼻歌が止んだオフィスで、その背中を見つめる。
仕事をする彼女の姿は好きだ。
年功序列が厳しい会社で、まだ自分メインのプロジェクトはやらせてもらえてないようだが、どんな仕事にも厳しく真面目にあたっていて。
ちょっと真面目すぎるが。
恋愛に気を取られて仕事を優先できない姿は想像できない。
「樫くん…、
いいの?そんなボケッとしてて。
『大事な用事』があるんじゃないの?」
振り返らず背中越しに飛んできた言葉に、ハッとする。
そうだった!
大学時代の女友達がセッティングしてくれた合コンの開始時刻が迫っている!
年末何かと忙しく、早く帰るのは気が引けたが、以前ダメ元で正直に話したら篠村さんは「早く帰っていいよ」と言ってくれた。
その代わり…
「それ全部直して、私のチェック終わるまで帰れないんだからね」
いつも以上に厳しいお言葉だ。
赤字ペンで手描き修正された図面のPC入力作業だが、量が多い。
いつもは何かにつけて「いいよ、無理しないでも」と、甘い彼女が、今日に限って厳しい。
楽しいイベントを控える俺へのいやがらせ?
いや、きっとそんなんじゃなくて…。
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