九番目の交響曲

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「私も、行こっかなあ…」 急いで身支度にかかっていると、背後からボソリとつぶやく声が聞こえた。 慌てて振り向く。 「……今、何て?」 「だからさぁ、その合コン、女の子側に欠員でたんでしょ? 私も混ぜてもらおーかなー、なーんて」 『いい事思い付いた!』と言いたげな顔だ。 きっとさっきの電話の内容が聞こえていたのだろう。 けれど 「…ダメです」 「えー、なんでー?」 「だって、考えてみて下さいよ。 俺の同級生がセッティングしたから、篠村さんからしたらガキばかりですよ。 そんな場に篠村さんみたいな大人の女性が現れたら、皆ドギマギしちゃいます」 「……年増が飛び入り参加したら、皆引いちゃうって言いたいのね?」 「ハハ」 「そこ!否定するでしょ普通!?」 「ハハハ」 そう、本当なら否定してもいい。 篠村さんは確かに歳は4つも上だけど、見た目は背は小さく童顔で、またその気さくな性格で、同年代のような親しみやすさがある。 もし本当に連れて行ったら、何人かの男に気に入られてしまうかもしれない。 篠村さんだって、仕事一筋とは言え寂しいだろうから盛り上がるかも。 おまけに今日はクリスマスイブ。 ………。 自分で膨らませた想像が、面白くなくて。 「ま、それは冗談として、 ホラ、職場の先輩が同じ場にいたら、気が引けて楽しめなくなっちゃうじゃないですか。 勘弁して下さいよー」 もっともらしい言い訳をした。 「ま、そりゃそうだね。 ゴメンゴメン」 元々本気でなかったのか、あっさり引き下がり、篠村さんはまたPCに向きなおった。 何故か、何に対してかは分からないけど、ホッとする自分がいた。 「じゃ、お先失礼します」 俺の掛けた声に、篠村さんは振り返らずヒラヒラと手を振ってくれた。 部屋を出るとき、またあの間抜けな『第九』が背後から聞こえていた。
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