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「私も、行こっかなあ…」
急いで身支度にかかっていると、背後からボソリとつぶやく声が聞こえた。
慌てて振り向く。
「……今、何て?」
「だからさぁ、その合コン、女の子側に欠員でたんでしょ?
私も混ぜてもらおーかなー、なーんて」
『いい事思い付いた!』と言いたげな顔だ。
きっとさっきの電話の内容が聞こえていたのだろう。
けれど
「…ダメです」
「えー、なんでー?」
「だって、考えてみて下さいよ。
俺の同級生がセッティングしたから、篠村さんからしたらガキばかりですよ。
そんな場に篠村さんみたいな大人の女性が現れたら、皆ドギマギしちゃいます」
「……年増が飛び入り参加したら、皆引いちゃうって言いたいのね?」
「ハハ」
「そこ!否定するでしょ普通!?」
「ハハハ」
そう、本当なら否定してもいい。
篠村さんは確かに歳は4つも上だけど、見た目は背は小さく童顔で、またその気さくな性格で、同年代のような親しみやすさがある。
もし本当に連れて行ったら、何人かの男に気に入られてしまうかもしれない。
篠村さんだって、仕事一筋とは言え寂しいだろうから盛り上がるかも。
おまけに今日はクリスマスイブ。
………。
自分で膨らませた想像が、面白くなくて。
「ま、それは冗談として、
ホラ、職場の先輩が同じ場にいたら、気が引けて楽しめなくなっちゃうじゃないですか。
勘弁して下さいよー」
もっともらしい言い訳をした。
「ま、そりゃそうだね。
ゴメンゴメン」
元々本気でなかったのか、あっさり引き下がり、篠村さんはまたPCに向きなおった。
何故か、何に対してかは分からないけど、ホッとする自分がいた。
「じゃ、お先失礼します」
俺の掛けた声に、篠村さんは振り返らずヒラヒラと手を振ってくれた。
部屋を出るとき、またあの間抜けな『第九』が背後から聞こえていた。
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