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美海は、ただただ止まらないく止めどなく流れる涙の中、敦を見つめ返して立っていたのが、やっとだった。
敦は美海を見つめて、黙ってもう一度優しいキスをした。
美海もそっと瞳を閉じた。
川の流れる音が、草が絡み合いながら春風に揺れる音色を引き立てていた。
敦と美海は並んで土手に座りながら、鳥が蒼く青く澄み渡る空を気持ちよさそうにしながら泳いでいるのを見上げていた。
「ねぇ…敦、なんで、そんな急なの?」
『…御免』
「ねぇ、なんで私の小学校の卒業式の時から今までずっとっ逢えなかったの?私、私っ…待っていたのに、探していたのにっ。」
『…御免』
「…っ、なんでっ~…」
なんで≪ ごめん ≫ばかりなのか、敦を怒ろうとしたが、隣に居た敦の、淋しげに笑う横顔を見て、私は続ける言葉を失ってしまった。
あんな、淋しげな敦は、初めて見た気がした。
『美海、』
「んっ?」
『抱き締めていいか、否。俺のものにしたい。』
「…へっ?あっ…」
私が、敦の言葉の意味を聞き返す間もなく、私は敦の強い力で地面に押し倒されてしまった。
土手の草や土の匂いが、いつもより近くに感じた。
敦をこんな角度から間近で見上げたのは初めてだった。
「あっ、敦?あのっ…どうしたっ…」
私はまた、敦のキスで言葉を遮られてしまった。
いつもより優しくて深いキスだった。
『…美海、嫌か?』
光の加減なのかもしれないが、何故か敦の目が少し涙ぐんでいるかのように美海には見えた。
なにか、悲しみを一人で堪えているような、そんな寂しい気持ちが伝わってくるようだった。
「…いいょ。」
恥ずかしくて恥ずかし過ぎて、敦の目を見ては言えなかったので、右に首を逸らして俯きながら美海は、そっと答えた。
俯いた右頬に土手の草が美海に優しく触れていたのが凄く、くすぐったかったの
だが、すぐに敦の深い深いキスのせいでそれどころでは無くなってしまった。
強く敦の腕に抱きしめられたので、美海もそっと抱きしめ返そうとしたが、
敦の腕の力が、美海から離れ落ちるように感じた、
その時─
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