秘密の恋人

4/26

153人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
目線を横にずらすと、彼も私の方を見ていた。 ……ズキッと、また心臓が痛み出した。 「もうっ! 刹那の話、聞いてなかったのぅ?」 「ええ、ごめんなさい」 その言葉に反応するように私が謝ると、耳に届いたため息を吐く音。 その小さな音さえも逃さないように、震えてしまうこの心臓。 “今すぐ止まったらいいのに” そう思って無理やり笑顔を作ると、今度は彼がゆっくりと口を開いた。 「別に大したことじゃないんですけど、今からお昼ご飯を作るんです! だからお姉さんも手伝ってくれます?」 さっきとは“別人のその顔”。 こちらに向けて、紡いだ言葉に目を見開いた。 何事もなかったかのように、「ねぇお姉さん、お願いします。手伝って下さいよ!」と言う彼の本当の素顔が見えない。 「……ええ」 下を向いて軽く頷いた自分。 ……本当は、断りたかった。 “用事があるの” そう言って断りたかった。 どうして、頷いてしまったんだろう。 そして彼は、一体何を考えてるんだろう。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加