153人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
目線を横にずらすと、彼も私の方を見ていた。
……ズキッと、また心臓が痛み出した。
「もうっ! 刹那の話、聞いてなかったのぅ?」
「ええ、ごめんなさい」
その言葉に反応するように私が謝ると、耳に届いたため息を吐く音。
その小さな音さえも逃さないように、震えてしまうこの心臓。
“今すぐ止まったらいいのに”
そう思って無理やり笑顔を作ると、今度は彼がゆっくりと口を開いた。
「別に大したことじゃないんですけど、今からお昼ご飯を作るんです! だからお姉さんも手伝ってくれます?」
さっきとは“別人のその顔”。
こちらに向けて、紡いだ言葉に目を見開いた。
何事もなかったかのように、「ねぇお姉さん、お願いします。手伝って下さいよ!」と言う彼の本当の素顔が見えない。
「……ええ」
下を向いて軽く頷いた自分。
……本当は、断りたかった。
“用事があるの” そう言って断りたかった。
どうして、頷いてしまったんだろう。
そして彼は、一体何を考えてるんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!