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冬の雨は冷たい。
しとしとと私の頬を濡らす水滴は、錆びたハサミのように私を嫌った。
今日という日を私は忘れない。
私は彼氏に捨てられた。
いや、捨てられたというのは私の個人的主観が入り交じっているだけなのだろう。端から見ればそれは、自然消滅とされるのかもしれない。私と彼は一ヶ月ほどまともに言葉を交わしていない。しかしそれはそれで、毎日のようにメールはしたし、彼にはちっとも私に対する飽きというものを感じていなかった。
皆は口々に自然消滅したんだよ、そういうものだよ、と軽々しく言う。
「でも、私には――」
私には、それは捨てられたも同然だったのだ。
彼は時間が取れないと言ったのは、一ヶ月前のことだった。
大学の研究のために私との時間が取れない、だからせめて毎日メールをしよう、と。
初めのうちは彼と会えないことが辛く苦しくはあったが、それくらい乗り越えられなくては、と私は考えを改めた。
そして、今日、彼への用が発生した。今から思えばそれはたいした用件ではなかったけれども、それを口実として彼と会えるのでは、という打算があった。ずるい女だというならば言うがいい。それで傷つくような私ではない。
ただ、傷ついたのは彼が研究室にいなかったということだった。
彼が以前に私に教えてくれた研究室には、彼の姿はなく、他の見知らぬ男性が数人いるのみだった。その人たちは私を不審そうに見る。そこで私は彼がいないか、ということを聞いた。
もしかしたら彼が偶然抜けていただけかもしれない――そんな希望的観測は、「え、彼かい? 彼ならだいたい一ヶ月前に学校をやめたよ」という返答によって打ち砕かれた。
「彼が……学校をやめたんですか?」私は問う。
「そうだよ、いやあ突然だったね。やりたい仕事が見つかったと言ってたね。今頃――」
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