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渋く低い声から発せられた言葉で、この広い会議室の隅に座り、緊張からか顔を強張らせていた男に笑顔が灯った。
暗がりを照らすような灯火。
彼にとってそんな表現が一番ピタリとはまるに違いない。
-穂村 勇、35歳
急成長を遂げるIT企業の社長である。
主な事業はオールジャンルの通信販売。
社名は10月生まれの穂村により、誕生石であり電気石とも言われるトルマリンから名付けられた。
「コミッショナー、オーナーの皆様。ありがとうございます」
穂村は、日本野球機構のコミッショナー並びに各3球団のオーナーに深々と頭を下げた。
白髪混じりで痩せ細ったコミッショナーからは、激励の言葉もかけられた。
名前は谷川海造。歳は74歳。
「期待していますよ。ベンチャー企業の参入ともなれば、プロ野球の人気が蘇るかもしれません。皆様の賛同もきっと、私と同じ意図をお持ちでしょう」
軽く頷く各球団オーナー。
「はい!必ずや斬新なパフォーマンスにより野球人気復活へ貢献します。そして・・・チームの強化を図り、ユニコーンズを優勝させてみせます」
穂村には強い意思が見て取れる。その決意表明の直後に沸き上がる拍手に照れ気味の穂村。その裏には安堵感が感じられる。なにせこの日まで長かった。しかし、新規参入が決定した今、そんな道のりを振り返るだけ時間の無駄だった。
本当の大仕事はこれからだ。
「ここがゴールじゃない。ここからが試合開始だからな」
そう忠告したのは、会議室を後にして昇りのエレベータに同乗した部下の富田隆盛だった。
部下といっても社長代理。そして大学時代からの親友だ。
「わかってるって」
「本当かぁ?そのニヤニヤ顔、オーナーの器には見えないけどなあ」
冗談交じりにからかう富田に反論する。
「あのなー、ようやく夢が叶ったんだぞ。喜びを表現して何が悪い!それに、俺だって浮かれてばかりじゃない。すぐに気を引き締めて、運営に携わりたい」
「期待してますよ、社長っ」
まるで放課後に戯れる学生のようなノリで話し始める二人。
そんな砕けた雰囲気を一瞬で正すようにエレベータが音を鳴らす。
右上のモニターに映し出される15階の文字。
「さ、挨拶に行くぞ」
穂村が呼びかけ、富田が呼応する。
「おう!」
緊張した面持ちで向かった先は、買収先の神奈川信宣ユニコーンズの前田オーナーが待つ部屋だった。
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