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冬休みも終わり、秋葉高校の三学期が始まった。晶子と朋美はナセコでのスキーツアーから帰ったらすぐにチアダンスの練習だと覚悟していたが、イザベラからの連絡はなかった。それどころか、三学期初日もイザベラは学校を休んでいた。
晶子と朋美はその日の放課後、竹虎に行ってみた。校舎の裏門を出て少し歩くと竹虎の大学いもの臭いがしてきた。晶子たちがお店ののれんをくぐると、奥の調理場で大学いもを揚げていた竹虎が声を掛けた。
「おや、元気にしてたかい、晶子と朋美」
「こんにちわ。そうだ、お正月のご挨拶もしなくっちゃ。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
晶子がぺこりとお辞儀をした。朋美も新年の挨拶を述べた。
「ああ、おめでとう。今年もよろしくね。奥のテーブルにすわってなさい。いま、大学いもができあがるから」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと、晶子は朋美と奥の座席に着いて、テーブルの上の湯呑茶碗にポットのお茶を入れて、竹虎を待った。
竹虎は大皿にできたての大学いもを大盛りにして運んできた。それを晶子たちの座るテーブルの真ん中に置くと竹虎は朋美の隣に座った。
「今日みたいに寒い日は、温かいお茶とできたてのホクホク大学いもにかぎるよ」
そう言いながら、竹虎は対面に座る晶子が入れたお茶を受け取った。
「竹虎さん、イザベラの姿が見えませんが、どうしたんですか?」
晶子が大学いもを一口、頬張りながら尋ねた。
「ああ、イザベラさまはいまホルスタイン王国に一時帰国されているんだよ」
「なんだ、そうだったの。でも、どうして急に帰国したのかしら。冬休み前はあんなにチアダンスの練習にこだわっていたのに」
朋美が独り言のように呟いた。
「それがね、朋美。イザベラさまは帰国される前に、わたしに言って行かれたんだけどね。何でも、秋葉高校野球部の強化策第二弾だと言っておられたんだよ」
「野球部の強化策第二弾って、何ですか?」
晶子が首を傾げた。
「それがね、晶子。あたしにも良くわからないんだけどね。『監督クン』を作ってくると言っておられたんだよ」
「監督クンを作る?」
晶子と朋美は同時に叫んで、顔を見合せた。
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