第16話 覚醒

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 その日の放課後、イザベラは伊藤直美先生と相談して野球部の「幹部会」を開いた。場所はパソコン室だった。私立竜谷高校野球部との交流試合までは三週間を切っていた。幹部会の参加者には、イザベラと直美のほかに、キャプテンの川添信吾と伊藤良平、そして有村秀太がいた。 「えーっつ。それでは野球部の幹部会を始めます」  イザベラが頃合い良しと見て、開会を宣言した。続いて、メンバー紹介があって、イザベラが秀太の操作するパソコン画面を見ながら「監督クン」を簡単に説明した。 「というわけで、この監督クンはここに出席している良平さんと秀太さんに操作してもらいます。このコンピューター・ソフトはいろいろな戦術を提案してくれますが、その前に詳細なデータを入力する必要があります。ひとつはこの秋葉高校野球部のメンバーのデータです。そして、もうひとつは相手チームのデータ。これらのデータは正確であればあるほど、監督クンが提案する戦術は精度を増します。だから、事前のデータ集めが大切です。それから、試合中にも良平さんと秀太さんは相手チームも含めて選手たちのスコアをどんどん入力する必要があります。そうすることによって、監督クンは試合の流れやその日の選手たちの調子を知ることができて、チームが勝つためのタイムリーでより細かな戦術を提案できるようになります」 「なるほど、コンピューターを駆使した野球をこれから始めるということね」  直美が感心したという顔をした。 「しかし、データと実際の選手の力量とがかなり違った場合、その監督クンはうまく機能しないんじゃないかな」  キャプテンの信吾がイザベラを見て、不安そうな顔をした。 「そうですね。キャプテンの指摘は大事なことです。この監督クンを機能させるためにはデータと選手の力量とを一致させることが前提条件になりますね。そのためには、選手たちの自己申告でデータをまず作って、その自己申告に見合うように選手たちに練習に励んでもらって、データと選手の力量を一致させることになります」  信吾がイザベラの言葉に頷いた。
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