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「ということは、自己申告する選手はそのデータに責任を持つということになるね。やる気のある奴はそれが練習を熱心にやることにつながるけど。怠けたい奴はいくらでも怠けられるということにもなるね」
「そんな人いるんですの、キャプテン?つまり怠けたい人間が野球部に?」
イザベラが信じられないという顔をした。
「そりゃ、みんなまじめで良いやつばかりじゃないよ。特にあいつは難物だ」
信吾の言葉に、良平も頷いた。それを見て、イザベラは不安になった。
「誰でありますか?そのあいつって?」
「一年生でピッチャーの椿俊介のことでしょう、キャプテン」
良平がイザベラの顔を見ながら言った。
「うん。椿は才能があるんだが、その才能に甘んじてつらい練習をしようとしないんだ」
「才能があるんなら、それでいいじゃないのかしら」
信吾の言葉を受けて、直美が言った。
「ピッチャーに才能があってもスタミナやピンチでの頑張り、それに連係プレーが十分でなかったら力量不足ということになって、野球の試合は負けてしまうんです、監督」
「そう言えば、昨年の戦績を調べて分かったことがあったな。秋葉の敗戦の七十パーセントは試合後半での逆転負けだった。それって、ピッチャーが後半に崩れたってことでしょう?」
秀太がキャプテンに問いかけた。
「そうなんだ。うちはクローザー(抑え投手)のでき次第で勝ったり、負けたりしてきたんだ。椿もクローザーで出してみたけど、あいつのボールをまともに獲れるキャッチャーがうちにはいなくて。そうするうちに、椿はどんどん自分勝手になって、練習はたまにしか出て来ないし、部会なんぞはまったく顔を出さないんだ」
「そう言えば、わたしは椿くんって、まだ見たことがないですわね」
イザベラも苦笑せざるを得なかった。
「じゃあ、どうするの?この監督クンと椿くんのこと」
直美が困った顔をした。
「大丈夫ですわ、監督。いまの椿くんのことも全部、この監督クンにデータ入力しましょう。そして、どんな最終結果を監督クンが出してくるのか、それを見てまたみんなで相談しましょう」
イザベラの言葉を結論として、野球部の「幹部会」は終了した。
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