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野球部の部活が終って、イザベラが良平を竹虎に誘った。そこには剣道の練習が終わった晶子と朋美がすでにいた。イザベラは良平と隣合わせに晶子たちの席に座った。
「それにしても、椿俊介ってどんな男の子なのかしらね」
そう言って、イザベラがため息をついた。良平は目の前の大学いもを摘まんだ。
「あいつは、ほんとうは真面目な良いやつなんだよ、イザベラさん」
「えっ。そうですの?じゃあ、なぜ野球部の練習に熱心じゃないのかしら?」
「あいつ、アパートで独り暮らしの生活費を稼ぐためにアルバイト漬けなんだ。ところが、昨年の新校則で部活義務化になったので、あいつ、仕方なく野球部に入ったというわけさ」
「そう、わたしたちが剣道部に入ったのと同じね。でも、その子、野球は上手なんでしょ」
晶子が二人の会話に参加した。良平は頷いた。
「あいつ、最初に部の練習に出たときに、ピッチャー志望だと言うので投げさせてみたんだ。バッターも立たせてね。そしたら、誰もあいつの投げるボールをまともに打つことができなかったんだ」
朋美も興味を持った。
「球が速いの?長身から投げ下ろすとか」
「いや、朋美さん。あいつの投げるボールは変則的だけどナックルボールの一種だと思う。身長は俺と同じくらいだからね」
「ナックルボール?」
「現代の魔球とも言われる球種で、スナップを掛けずに手首を固定して球を押し出す様に投げるから、ほぼ無回転の状態でボールがやって来るんだ。すると空気抵抗があるから、そのボールは左右に軌道を自然に変えて、バッターから見ると揺れ落ちるように見えるんだ。しかも、普通はプロのピッチャーでも、ナックルはせいぜい時速110キロくらいの速さなんだけど、あいつの球速は130キロくらい出ている高速ナックルなんだ。それで予測不能な変化をするので、バッターはボールをまともにバットの芯でとらえることができないんだ」
「ふーん、椿くんって、魔球を投げるんだ。すごいじゃない、それなら甲子園にも行けるわよ」
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