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朋美が笑った。だが、良平は左右に首を振った。
「問題は、どうやってあいつを部活に専念させるかなんだ。なにしろ、アルバイト優先で仕方なく部活をしてるということに加えて、あいつ野球を舐めてる節があるんだ。まあ、あいつの投げるボールを誰もまともに打ち返せなかった俺たちにも問題があるんだけどね」
「そう、なかなか難しい事情でありますね。竜谷高校との交流試合までもう三週間を切っているので、今回はやはり椿くん抜きで戦略を立てましょう」
イザベラが半分あきらめたような口調で言った。
「まだ、諦めるのは早いわ。晶子なんとかしなさいよ」
そう言いながら、朋美が右隣の晶子を肘でつついた。晶子は突然自分に振られたので驚いた。
「えっ。わたし?どうして?」
「だって、イザベラが困ってるのよ。友だち思いのあなたが助けないわけないでしょうが」
「うーん、わかった。その椿くんってなんか気に食わないけど。イザベラのためなら頑張ってみるわ」
「ありがとう、晶子。恩に着るでござりまする」
イザベラの変な言い回しに、一同爆笑した。
翌朝、晶子は椿俊介を見るため休み時間に彼の教室を訪ねることにした。俊介のクラスは校舎の一階で一年A組だった。
晶子は教室の後ろの出入り口のところで女生徒の一人に声を掛けて、俊介を呼んでもらった。その女生徒に声を掛けられた俊介は教室の外で待っている晶子をジロリと見た。そして、席を立って晶子のところにやってきた。俊介は身長が175センチくらいでスリムな体型のイケメンだった。
「君が椿くん?」
「そうだけど。お前、誰?」
「わたしは晶子、二年B組の朝倉晶子」
「で、晶子が俺に何の用?」
「君は野球部の練習に出てないそうじゃない」
「なんだ、お前。野球部の回し者か。俺はてっきりコクられるのかと思ったよ」
そう言いながら、俊介は晶子の顔を覗き込むようにして爽やかな笑顔を作って見せた。
「な、何、馬鹿なこと言ってるのよ。それにわたしは君の上級生なのよ。ため口じゃなくもっと丁寧な物言いはできないの」
晶子が後ろに引きながら言った。
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