雪に埋もれた過去

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「そうだけれど」 「親父とななが離婚した直後、ななとお前は姿を消し、俺は直ぐに探し始めた。ようやく突き止めた時には、矢萩は既に事故で亡くなり、ななとお前はまた消息を絶った……そして、やっとお前を見つけたんだ。今の生活を壊すな」 ヒロはアリアの前では止めていた煙草を、胸元のポケットから取り出し、マッチで火をつけた。 苛ついているようだった。 「でも、いつまでも何かが引っかかっている。自分はなんなのか、知りたい」 「俺がお前を必要としているだけではだめなのか」 本当に必要とされているのだろうか。また突然見捨てられ、置き去りにされるのではないか、アリアはそんなことを思った。 「お金に不自由はなかっただろうが、ななは男を替えるたびに引っ越すような生活だっただろう。愛情のない生活をおまえに強いてきたななが、今更母親らしいことをすると思うか」 アリアは何も言い返せずに、俯いた。 「おまけにお前に男の格好をさせていただろ。暫くぶりで会った時には、男だと思いお前とはわからなかった」 「それは、以前母さんが男の人と同棲していた時に、色々あって……」 「男がお前を襲おうとしたからだろ。そんな危険な環境で生活させられて、お前を犠牲にしても詐欺はやめなかった女だ」 「ヒロだって、盗みをやめられないし、刑事達には女の格好では会うなと言うじゃない」 「それとこれとは話が別だ」 「同じだ……煙草が煙たい。やっぱり今まで止めていなかったんだね、体壊すよ」 「これでも、だいぶ減らした」 苛々して無意識に吸ってしまった煙草を、銀色の携帯用灰皿を開き、乱暴にもみ消した。 「ねえ、どうしてそんなに母さんに会わせたくないの」 「何もいいことがない。もう止めだ。嫌なことばかり思い出す」 ヒロはふいと、そっぽを向いてしまった。 アリアは納得できなかったが、ヒロが嫌がっているのがよくわかったので、それ以上は問いただせなかった。 雪は白々と青白い街中に、音もなく降り続いていた。
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