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翌朝、八時過ぎにアリアが目覚めると、ヒロの姿はなく、居間のテーブルに走り書きのような手紙が置いてあった。
『ちょっと仕事を片付けてくる、夜には帰るから飲みに行こう。今、ななは旭川にはいない、一人で行動を起こすな』
「籠の中の鳥……」
そう呟くと、面倒くさそうにお湯を沸かし、ティーバッグの紅茶を淹れた。
「柚子の淹れた紅茶が飲みたいな……」
そう思うと無性に柚子の声が聞きたくなり、アリアは携帯を手にとり、柚子にコールした。
何度目かの呼び出し音の後、聞き慣れた甲高い声が耳元に響いた。
「アリアなの? 帰ってきたの? ちゃんとご飯食べていた? 大丈夫?」
矢継ぎ早に質問攻めにされ、アリアはつい笑いがこみ上げてきた。
「なんだか柚子の方が保護者みたい」
「だって、心配だもの」
「今、電話大丈夫なの?」
「うん、学校に行く途中。ちょっと外野がうるさいけれど」
確かに、周りに柚子の友達がいるらしく彼氏からなの? 等と、きゃあきゃあと黄色い声が聞こえてきた。
「まだ、帰れないの?」
「ヒロからもう少し聞きたいことがあるから」
「そう……昇が仕事に手がつかないって、十無がぼやいていたよ」
「昇が?」
「アリアがヒロと二人きりで旭川に滞在していると思うと、穏やかにしていられないじゃない」
「いつもと変わらないよ」
「鈍いわね、だってヒロはあの二人にはアリアのことを恋人だって言いふらしているのよ」
「そんなの冗談だと思っているでしょ。それに、だからってあの二人が何か関係あるの」
「もう、アリアがそんなだから世話が焼けるのよ。ヒロは本気で言っているし、十無と昇もアリアが好きなの」
柚子はじれったそうに言った。
「まさか。だって、男だと思われているし……」
「まあいいわ、でも事実よ。よーく考えて行動してね、くれぐれもヒロに襲われない様に」
冗談には聞こえない真面目な口調でそう忠告すると、もう学校だからと電話が切れた。
「ちょっと、柚子……」
傍から見ると、ヒロのアリアに対する行動は、どう見ても恋人として扱っているようにしか見えないが、アリアにしてみれば一緒に暮らし始めてからずっと、冗談交じりにそんな扱いを受けていた為、兄妹の枠を出た行動とは思っていなかった。
アリアは理解できていなかった。
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