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「どうして夏なの」
「会わせないわけじゃない、そのくらい待て」
ヒロに威圧的にそう言われると、アリアはいつものように黙るしかなかった。
窓から見えるビルの煙突から寒々しく風になびいている白い煙を眺めた。
今夜はこれ以上、何も聞くことはできない。もう言い争いはしたくない。
アリアは早々に諦めて所在なげに手拭タオルを弄んだ。
二人が気まずい感じで沈黙していると、タイミングよくバーテンダーがカクテルを運んできた。
フレッシュ苺を使用した、鮮やかな赤いフローズンカクテルがアリアの前に置かれた。
蘭の花が挿され、ストローもついていて南国風を思わせるカクテルだった。
「女の子が好みそう」
「おまえも女の子だろう」
「そうだった」
そう言って肩をすくめたアリアに、ヒロは目を細めて頬笑み、ゆっくりと白濁色のギムレットを口に運んだ。
「美味しいけれど、アルコールがかなり少ない」
カクテルに口をつけ、アリアは少し物足りなさそうな顔をした。
「お子様だからそのくらいでいい」
「またそういうことを言う。もう二十歳を過ぎているのに、いつまでも同じ扱い」
「大人か、そうは見えない」
フッとヒロの表情が穏やかになった。
「小馬鹿にしてる」
「俺がななのところから連れ出した時と、変わりないようだが」
「そんな何年も前と同じわけがない」
文句を言いながら、アリアはカクテルを飲み干した。
アリアはこんな時のヒロが好きだった。安心して頼り切ってしまえる、優しいヒロ。
いつもこうだったらいいのに。
「次は辛口。えーと、ジンベースで……マティーニ、ドライマティーニにする」
「飲めないからやめておけ」
「大丈夫」
アリアは駄々っ子のように譲らず、ヒロは苦笑しながら言うとおりに注文した。
「じゃ、ドライマティーニを。ドライベルモットは一滴で、レモンピールは入れなくていい」
「かしこまりました」
「それと……」
ヒロはバーテンダーに、アリアには聞こえないようにもう一つ頼んだ。
「何を頼んだの」
「内緒、きたらわかる」
少しすると、よく冷えてカクテルグラスに水滴が光っているドライマティーニが運ばれてきた。
「ヒロが頼んだのは」
「後でくる、先にどうぞ」
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