戸惑う昇

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「ごめん、覚えてない。でももう機嫌直してよ、昇」 「ほんっとにお前、昨日のことを覚えていないのか」 ホテルのレストランで朝食をとりながら、昇は面白くなさそうに口を尖らせて文句を言った。大きなため息までついている。 アリアは本当にきれいさっぱり覚えてなかった。  ただ、ぐっすりと眠れたことは確かだ。 「ねえ、何があったの」 その横で、興味津々にそのやり取りを見ていた柚子が、口を挟んだ。 「俺ももう忘れた!」 トーストにかじりつきながら、昇はやけくそ気味だ。 「ふうん、何かあったのね」 「何も無い!」 「アリアを襲っちゃったとか」 「違う! こいつが先に抱きついてきてキスしたんだぞ!」 つい口を滑らせた昇は、額に冷や汗を滲ませた。 「あらら」 柚子はニヤニヤしてアリアと昇を見比べていた。 冗談、全く覚えがない。記憶がなくなるほど飲んだだろうか。 アリアは硬直して、言葉もない。 「先にって言うことは、その後昇も『何か』したの」 柚子の口調は含みを持って、意地悪い。 「勘弁してくれ、もういいだろ」 「別にゲイでもいいじゃないの」 「俺、先に部屋に戻って帰る支度をするから」 昇は逃げるように席を立った。 「柚子、面白がってる」 「だって、面白いんだもん。でもびっくり、アリアって……」 「何も覚えていない」  アリアは自分でも信じられなかった。本当にそんなことをしたのだろうか。 「アリアが好きなのは双子のうちのどっち?」 「もういい加減にして。頭が重い。飛行機に乗って大丈夫かな」 柚子にいつまでもそのことをつつかれそうで、アリアは話しを遮った。 「すぐに帰るの? せっかくだから観光していこうよ~」 「元気だね……昇の叔父さんからの情報はまだ時間がかかりそうだから、東京に連絡くれることになったし、柚子も見つけて用事が済んだから、もう帰る」 「動物園に行きたい!」 柚子の強引さに負けて、飛行機を最終便に変更することになった。  動物園は旭山という山の斜面にあり、冬期間も開園していた。 園内は山の斜面がそのまま残されており、旭川市内が遠くに見渡せた。 「雪の中の動物園って初めて。さすがに寒いわね~」 アリアには柚子が異常にはしゃいでいるように見えた。 「柚子、何かあったのかな」
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