戸惑う昇

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ペンギン館に向かって先を歩いている柚子に聞こえないよう、アリアは昇にそっと囁いた。 「いつもあんな感じだろ」 昇の気にも留めていないような返答に、アリアはあまり納得できず、 「そうかな」と反論した。 「ほら、二人とも早く~。すごい速さでペンギンが泳いでる。可愛い!」 ペンギン館は途中に透明なトンネルがあり、頭上や足元を気持ちよさそうにするりと泳いでいくペンギンが、間近に見えた。 「へえ、確かに凄い」 昇が感心している。 「こんなに早く泳ぐのね、知らなかった」 素直に喜び、見入っている柚子を見て、アリアは思い過ごしだったかなと思った。 間近で北極熊の様子を見ることができたり、サル山を見下ろしたりと一風変わった施設を、きゃあきゃあはしゃぎながら見て周る柚子に、昇とアリアは付き合った。 「二日酔いの体には、この寒さは堪える」 昇は大きな欠伸をした。 「昇も結構飲んだ?」 「おまえにつき合わされたからな」 「ごめん」 「き、昨日のことはごめん」  昇が早口で言った。 「うん、気にしなくていいよ」 昇が気を使うだろうと、極力笑顔をつくり、アリアは明るくあっさりと答えたつもりだった。 だが、何故か逆効果だったようで、昇はがっくりと肩を落としてしまった。 「そうか、それだけの存在か」 「昇、なーに一人でぶつぶつ言って赤くなったり青くなったりしてたの」 柚子が帰り際、温かい飲み物がほしいと言い出し、アリアが買いに行った隙に、柚子は昇に注文をつけた。 「昇、そんなんじゃヒロにアリアを取られちゃうわよ。せっかくチャンスを作ってあげたのに」 「……お前、それを言いたくてわざとアリアを買い物に行かせたのか」 「えへへ。でも昇ってシャイね、今まで彼女いなかったの?」 「だって、男相手に……」  昇は口ごもった。  女性と真面目に付き合ったことはないが、女の遊び友達はいたし、兄のように奥手というわけではなかった。だが今回は勝手が違う。何せ相手は男なのだ。
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