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「そんなの関係ないじゃない。だったら、今度は十無に協力しようかな。十無は押しが強いかしら」
「アリアの言っていた柚子が楽しんでいるっていう意味がよくわかった。だれかれかまわずけしかけて面白がっているだろう」
「なにそれ? 私はただアリアを助けたいだけ」
「どういうことだ」
「アリアはヒロといるとだめになるから」
会話の途中でアリアが車に戻って来てしまい、昇はそれ以上は柚子から聞けなかった。
動物園を後にし、昼食に蕎麦屋へ行ったが、何を食べたのかどんな味だったのか、覚えていないほど昇は上の空だった。
「昇、ぼうっとして、眠いの? しっかり運転してよ」
運転中も、昇は柚子との会話を引きずっていた。
「あ、いや大丈夫」
助手席に座っているアリアに声をかけられ、昇は我に返った。
三人はレンタカ―で旭川空港へ向かっていた。
旭川の住宅街を抜け、アリアの案内どおりに空港へ行く真っ直ぐに続く裏道に入ると、数分もしないうちに畑が広がるのどかな丘の風景になった。
道は真っ直ぐだったが、丘を越えるために坂道を何度もアップダウンする。
路面が滑るので、昇は緊張しながら運転していたが、面白い道だった。
「車で良かった、こんな風景が見られたもの。北海道って感じ、美瑛みたいね」
柚子は雪景色を見ながら、『すごーい』『きれい』をしきりに連発していた。
そして三十分ほどで、旭川空港に着いた。
東京からの便が到着したばかりのようで、到着ロビーが賑やかだった。
「アリア! 連絡もしないで一体何をやっていた」
その低い声に、昇はぎょっとした。
搭乗手続きを済ませるため、カウンターの前に並んでいたところに、
アリアの義兄、ヒロが駆け寄ってきたのだ。
昇はアリアを連れて行かれそうな気がして、身構えた。
「え? ヒロ、どうしたの」
ヒロを見て、アリアはきょとんとしている。
「おまえ、携帯の電源切っているだろう?」
「切っていないよ」
アリアは自分の携帯をコートから取り出して確認すると、電源が切れていた。
「おかしいな、いつの間に」
「柚子か」
ヒロが柚子をじろりと睨んだ。
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