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「私? 知らない」
「まあいい、柚子にも会えたんだな。やっぱり探偵も一緒だったのか」
「ヒロって過保護。ちょっと連絡が取れなかったからって、東京からここまで来る? 普通」
「柚子には関係の無いことだ」
「あるわよ、一緒に暮らしているもの。一便ずらしたほうが良かった、そうしたら会わないで済んだのに」
柚子は、ヒロに物怖じせず、憎まれ口の応酬だ。
もっと言ってやれ、と昇は心の中で応援していたが、さすがに口は挟めなかった。その場で成り行きをうかがっていた。
「柚子、もうやめなさい」
「は~い」
アリアにたしなめられて、面白くなさそうに柚子が返事をした。
「アリア、来い」
ヒロはアリアの肩を掴んで、強引に自分の方へ引き寄せた。
「これから東京へ帰るけれど」
「とんぼ返りも馬鹿らしいし、折角だからちょっと付き合え」
「でも……」
「嫌がっているだろう、やめろ」
横暴なヒロに、我慢ならなくなった昇は、ヒロの腕に手を掛けた。
「アリア、俺と行くだろう?」
ヒロは昇の存在を無視し、アリアの顔をじっと見つめて言った。
「……ごめん柚子。先にマンションへ帰って」
抗えない何かがあるように、アリアは抑揚のない声でそう言った。
「アリアが早く帰って来なかったら、私、またいなくなっちゃうかも」
「本当に行くのか」
「直ぐ帰る。調査代も払わないとならないし」
そう言った時には、いつものアリアの口調に戻っていた。
「じゃあな、探偵」
そう言ってヒロは、わざとアリアの肩を抱き寄せて空港を出ていった。
「昇、いいの? 二人にしちゃって、ほんとに押しが弱いんだから。
あ~あ、知らないっ」
これ以上は何もできない。柚子に言われるまでもなく、昇はかなり焦ったが、どうすることもできなかった。
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