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東京に帰って四日が過ぎていたが、昇は憂鬱を引きずっていた。
今朝の天気も小春日和で、日差しが温かく、雪景色の中、アリアと過ごした時間が夢の中の出来事のように思えた。
夢だと思っていた方が楽かもしれない。
四日しか経っていない、もう四日も経ってしまった。そんなことばかり悶々と考えて仕事にならなかった。
十無に何かあったのかと聞かれたが、どう話していいのか、話す気にもならない。
「また今日もそうやってボーッと過ごすつもりか」
何処を見るでもなく、魂の抜けたような顔でパンをかじっている昇を見て、十無が呆れたように言った。
非番の十無はのんびりしていたが、なぜか仕事のはずの昇も、十無が作った朝食をちゃっかり一緒に食べていた。
「アリアはまだ帰ってきていないんだな。誰かと一緒か」
「……」
「もういい。お前じゃ話しにならん、柚子に会って聞く。見ていられ
ない」
「別に柚子に聞かなくても」
「じゃあいったい、帰ってからのお前はどうなっているんだ」
「……アリアは一緒に帰るはずだった。でもあいつが旭川に来て、アリアをさらっていった」
「あいつって、ヒロか」
「ああ」
「それでずっと気になって何も手につかないということか。相当重症だな」
「うるさい」
十無だって毎日俺にアリアは帰ってきたかと聞くじゃないかと、昇は言いたかったが、傷口を広げあうだけだと、わかっていたので口に出さなかった。
「そういえば叔父さんに何か頼んだのか。俺とお前を間違えて連絡が来たぞ」
「ああ、ちょっと」
「古い交通事故の情報か。矢萩孝介……杉沢柚子の父親か」
「なんだ、十無も調べていたのか」
「調べたってほどじゃないが」
十無は少し言葉に詰まった。
昇は十無も相当調べていたかと思うと、おかしくてにやついた。
「なに笑ってる」
「いや、俺とそんなに変わらないなと思って」
それには返事をせず、十無は叔父からの情報を話し始めた。
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