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「それでだな、矢萩孝介の運転していた車は、カーブを曲がり損ね、ガードレールに激突し、即死状態だったということだ。ブレーキの跡がなく、当時は居眠り運転の可能性が高いと処理されている」
「不審な点はないのか」
「特にない。だが、事故の数週間前から極端に仕事が忙しくなり、妻が亡くなってから乳児院に預けていた娘の元にも、ほとんど顔を出せないでいたとのことだ」
「過労か? 叔父さんがそんなことまで調べたのか」
「ああ。色々と俺が頼んで」
十無が曖昧な返事をした。
「ふうん、始めから十無に頼めば早かったようだ」
昇の嫌味は無視し、十無は続けた。
「矢萩建設は小さい会社で、下請仕事をして成り立っていたようだ。その中でも当時、美原工業からの仕事が異常に増えていたということだ」
「美原工業って、矢萩建設を吸収した会社」
「そうだ。しかし、そんな小さな会社を手に入れる為にわざと過労に追いやり、事故を起こすよう仕向けたとは考えられない。やはり、事故だったと考える方が妥当だと思う」
「そうだな」
やっぱり、思い過ごしなのか。
「だが、俺は美原が限りなく黒に近いと思う」
十無が意外なことを言った。
「どうして」
「事故当時、夜遅くに仕事のことで矢萩を呼び出したのは美原だ。呼び出しはよくあったそうだ」
「嫌がらせか、恨みでもあるのか」
「美原の身辺をよく調べないとなんとも言えない。勘だが、何かありそうだ」
「俺も調べる」
「お前はいいから、クビにならないようにさっさと食べて早く仕事に行け」
「ちぇっ」
昇は朝食を食べ終わると、アパートを追い出されるように職場へ向かった。
双子は怨恨の線で、美原と矢萩に関する情報収集を継続したのだった。
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