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雪に埋もれた過去
深夜。雪明りと街灯の明かりが、降り続く雪を青白く照らし出していた。
落ちていく雪は再び宙を舞い上がり、いつまでも空を漂っているように見えた。
アリアは窓辺のソファに寄りかかり、飽きることなくそんな雪を眺めていた。そうすると、気持ちが落ち着き、嫌なことも面倒なことも、雪が全てを覆い隠してくれそうな気になる。
旭川の中心に近いマンションの七階。部屋はスタンドライトの明かりが部屋の隅で小さく灯っているだけで、夜だというのに外の方が雪明りで明るく感じられた。
「まだ寝ないのか」
ヒロは寝室から出てきてアリアの横に座り、そっと肩を抱いた。
「明日、東京に帰っていい?」
視線は窓の外に向け、アリアは消え入りそうな声でヒロに聞いた。
「急ぐ必要はない」
聞いても無駄だとわかっていたが、有無を言わさない口調で言い切られると、僅かな望みもかき消された気がした。
アリアは無意識にため息をもらした。
「……雪を見ていると嫌なことも思い出す、でもなぜか目を背けられない。逃れられなくて吸い込まれてしまいそう」
「何を言っている……お前、また俺のメーカーズマークを飲んだな」
ヒロはサイドテーブルの上にある、氷のみになったグラスを見て、顔をしかめた。
「ロックはだめだと言っているだろ、強くないのに」
「眠れなくて」
「じゃあ眠れるように、俺が疲れさせてやろうか」
アリアを胸に引き寄せて抱きしめ、指先で唇をそっとなぞった。
「いやだ、ふざけないで」
手を払いのけると、ヒロはあっさりとアリアから離れた。
「ふん、意味がわかったのか。少しは大人になった」
「いつまでも子ども扱いしないで。何を訊いてもはぐらかしてばかり、親のことだって……何もかも全て教えてよ!」
自分は何でもお見通しだと言うヒロの態度は、アリアを苛つかせた。
いつもならヒロのおふざけもアリアは聞き流して気にも留めないのだが、アルコールが入ったせいで多少気が大きくなり、絡んだのだった。
だが、ヒロは冷静だった。
「この前話した通りだ、これ以上何を知りたい」
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