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「柚子の父親は本当に私の父親なの? 美原博一が本当の父親だと思っていたから、小さい頃、父……美原がなぜ私に冷たい態度なのかわからなかった……ずっと私はいらない子なんだと思っていた。中学生になってヒロに再会したときやっと教えてくれた。ななと不倫相手との子供だったって」
今までヒロに言えなかった思いが、一気に溢れた。
「俺だってそのことを知ったのはかなり後だ。当時俺も、親父がお前をなぜ疎んじるのか理解できなかった。離婚後、親父にお前を引き取らないのは何故か問いただしてようやくわかった。親父はプライドが高いから、初めから妻に二股かけられていたなんて、知られたくなかったのだろう」
「そう。でも今まで話してくれなかった」
「すまん、話しづらくて。母親が結婚詐欺師でお前の父親ははっきりしないなんて。いや、矢萩孝介がそうだとは思うが。そのことを黙っていたから、怒ったのか」
「別に、それだけじゃないけれど」
アリアはまだむすっとしていた。
「……ななの元から連れ出して、良かっただろう?」
「あの時は突然ヒロが来て強引に連れて行かれたから、選択肢はなかった。あれからもう何年になる? 何も言わず突然家を出たから……母さんは今どうしているかな」
あんな母親でも、一応母親には違いないのだ。やはり、アリアは気にかかっていた。
「あんな奴のことは心配しなくていい」
「知っているんでしょ」
アリアは少し語彙を強めて言うと、ヒロは渋々答えた。
「……あの女は、また美原と復縁している」
「どうなっているの」
「俺にもよくわからん。ななは何を考えているのか。もう関わりたくない」
アリアはパニックを起こした。不倫が原因で離婚した美原博一とななが、また復縁しているなんて。
「会って話を聞こうなんて思うな」
ヒロはアリアが思っていることを見透かしたように釘をさした。
「どうして」
「このまま縁を切っておけ。会ってもななと美原に振り回されるだけだ」
「でも母さんに会って聞きたい、私の父は誰なのか」
酔った勢いでヒロに食って掛かっていたが、アリアは徐々に酔いが覚めて、控えめな声でそう訊いた。
「ななと一緒に暮らしていた時も何も話してくれなかったんだろ? それどころかあいつは男と過ごすことが多くて、お前はほとんど放任されていたと言っていたじゃないか」
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