「サヨナラ・・・」

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「…和馬、あなたは間違ってる。それは私も同じ。ずっと過ちを繰り返して来た。やっぱり、私達は間違ってる」 「間違ってる?そんなのはくだらない倫理観の話だろ。人の気持ちは、どうしても捨てられないものだってある!」 「そんなの!そんなの、分かってるよ!ずっと、ずっと捨てられなかった。だから今の私がいる。でも、いつかは捨てないと心が壊れちゃう。私、やっと気づいたの。自分の居場所が無くて、未来が見えないのがどんなに苦しくて、淋しくて、虚しいことなのか」 「…」 「…和馬、女にとって子供の存在がどんなものか分かる?」 涙が滲む目を細め、彼を真っ直ぐに見つめた。 和馬は瞬きの後、微かに眉を寄せる。 「私が入院してる時、和馬の子供が欲しいって言ったの覚えてる?」 私は涙で滲む視線をフロントガラスに移し、一呼吸してから言葉を続けた。 「あぁ、覚えてる」 彼は静かに言葉を返す。 「あの時、翔太を失って、卵巣も失って、私は確かに悲観的になってた。だけど、あの言葉はあの時だけの思いつきで言ったんじゃない。何度も思ったことあるよ。和馬の子供が欲しいって」 駐車場に出入りする車のライトを遠く眺め、苦し紛れに小さな笑みを溢した。 「俺の子供って…おまえには彼氏がいただろ」 「違うよ。まだ翔太と付き合う前の話。一度別れる前の話だよ」 「あぁ…その頃か」 目を伏せて首を振る私を横目に、和馬は気まずそうに苦笑いを浮かべる。 私は胸の苦しさを押さえながら、再び口を開く。
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