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「あの頃から、ずっと梨花さんが羨ましかった。どんなに想っても、『愛してる』と言葉を貰っても、和馬は決して手に入らない。だから、愛の証が欲しかった。いつかは離れてしまうからこそ、愛されていたという証が欲しかった」
「子供が証?子供は気持ちを確かめるための道具じゃないだろ」
和馬は口の端を歪め、ふっと短く笑った。
「道具だなんて思ってない!」
私は声をあげ、キッと和馬に鋭い視線を向ける。
「和馬の言いたい事はわかる。私だって、先の事を考えたら実際にそれができる勇気なんて無かった。女の想いの、愛し方の話だよ!」
初めは側にいるだけで幸せだった。
それなのに、愛してるだけじゃ足りなくなる。
愛されてるだけじゃ足りなくなる。
「愛を形として残したい、愛された証が欲しい。…それを願うのが女なんだよ」
和馬の目を見つめ、掠れた声を喉から絞り出した。
「その証が子供か…」
和馬は目を細め、唇を歪める。
「きっとこの想いは、子宮と卵巣を持って産まれた女にしか解らない。この葛藤も、悔しさも、虚しさも、女にしか解らない」
愛する者から大切な命を授かる…。
お腹を撫でながら優しく微笑む、あの梨花の幸せそうな顔が瞼に映る。
大きな傷痕を残した自分のお腹に手を当て、震える唇をギュッと痛いくらいに噛んだ。
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