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「だから和馬…私を捨ててよ。このゲームの幕を閉じるのは和馬、あなたの役目でしょ?」
肩に触れる彼の手に自分の手のひらを重ね、涙で濡れた唇で笑みを形作った。
「…俺から綾子に別れを?」
彼は、顔を強張らせ低い声を洩らす。
肩に乗せた和馬の手に力が入った。
「…私、ずっと考えてた。どうして私は和馬から離れられないのか。あの時、自分で別れを決めたのに、どうしてまた繰り返してしまったのか」
「…」
「それは、私の方から別れを決断したから。自分から切り出す別れによって、終わっても心のどこかで『和馬の私に対する未練』を期待してた。それが、いつまでも私自身の未練になってた」
視線を和馬の足もとに落とし、口をつぐんだ。
「だから今度は俺から別れを?別れを切り出した方からは、未練はあっても図々しく復縁は迫れないって?」
和馬は心苦しそうに口の端を歪めた。
「私は和馬からの決断が欲しいの。和馬はいつも私に言ったよね?綾子の決断に任せる。お前を止める権利は俺にはないって。だけど、手放したくないとも言った。和馬はいつも私に選択させてた。でも和馬、それは優しさなんかじゃないよ。中途半端な言葉は残酷なだけ。苦しいだけ。だって、どんなに苦しくても、逃げ出したくても、心に残るのは『手放したくない』…その言葉だけなんだから」
涙で霞んだ視界の中に、悲痛な思いに歪んだ彼の顔がぼやけて見える。
押し潰されて悲鳴をあげる心。
胸の痛みに息もできず、目を伏せて嗚咽混じりの深呼吸をした。
「言葉にしてはいけない想いがある…。以前、俺がお前に言った言葉だったな」
和馬はゆっくりと私の肩から手を離し、小さな笑みを浮かべながら苦し紛れの呟きを落とす。
薄暗い車内に再び流れる沈黙の時。
手のひらで嗚咽を押さえ、何度も涙を拭いながらうつ向くことしか出来ない私。
和馬は黙って窓の外を見つめ、何度も小さなため息を溢す。
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