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緊迫感に包まれた重苦しい空気。
和馬の微かな手の動きだけで、体がビクッと反応を示す。
駐車場を出入りする車は時間の経過と共に増えてくる。
静けさを保っていた私達の周囲にも、数台の行き交う車の姿が見える。
すぐ目の前に一台の白いワゴン車が止まった時、和馬は突然車のキーを回した。
キーホルダーがカチャカチャとぶつかり合う音と、体に響く低いエンジン音。
私は驚き顔を上げた。
「…寮まで送る」
和馬は駐車場の出口に視線を向け、短く言葉を切った。
「えっ?寮って…だって、まだ話が…」
和馬の横顔を凝視し戸惑う私。
次第に加速していくエンジン音。
「…」
和馬は何も答えず、フロントガラスだけに視線を向けている。
まさか…このまま帰れって?
今日は話したくないって事?
それとも、もうこのまま何も言わずに終わらせるつもり?
「和馬、お願い。私を、私を前に進ませて。もうこれ以上は…」
「分かってるっ!お前の気持ちは分かったよ。分かったから…」
和馬は強い口調で私の言葉を遮った後、声のトーンを落とし語尾を和らげた。
すがる気持ちで思わず掴んでしまった彼の腕を、その言葉の後に急いで離す。
私は唇をきつく閉じて眉を寄せる。
寮に向かって走り続ける車。
和馬…今、あなたは何を考えているの?
相変わらずの沈黙状態を突き通す和馬。
話し掛けようかと横顔を見る度に、言葉にならず再び視線を落としてしまう。
苛立ちのせいなのか、彼から流れてくる煙草の煙の間隔が短くなっている。
窓から入り込む夜風に踊らされ、空気に溶けては消えてゆく白い煙を、私は気まずい気持ちで眺めていた
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