「サヨナラ・・・」

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シートに頭を付け、瞬きもせぬまま窓ガラスに視線を置く。 …あれ? 私はある事に気づき、力無く項垂れた首を上げる。 「和馬、この道からじゃ寮を通り過ぎちゃうよ…」 遠慮がちに声をかける。 「…良いんだ。この道で」 和馬は表情を変えずに微かに頷く。 「良いんだって…どこに行くの?」 「俺たちの過ちの時間を戻す場所。俺自身で綾子を解放してやらなきゃな」 ライトは、どこまでも続くアスファルトを照らし続ける。 和馬は静かに言葉を返すと、ふっと小さな笑みを見せた。 道沿いに並ぶ等間隔の街路樹と、木々の葉をぼんやりと浮かび上がらせる外灯。 行き交う車は次第に疎らとなり、静かな緩い坂道を下る。 「和馬…もしかして」 彼の横顔を見つめ言葉を発する。 「ん…」 和馬は前方に視線を置いたまま、喉で短い返事をした。 正面には公園の噴水、左右には芝生の広場が見える交差点。 和馬はウインカーを出して左折をした。 木々のアーチが続く道を暫く直進すると、車はゆっくりと減速し始めた。 「この駐車場、夜間は入れなくなったんだな…」 和馬は窓の外を眺め、誰に聞かせるでもない様な小声でぽつりと呟く。 「うん。ここの駐車場、全部綺麗に舗装したから変わっちゃったよ」 駐車場の出入口に張られたチェーンを見つめ、言葉を返す。 「そう言えば、そう言ってたな。…あのベンチも遊歩道も無くなったって」 和馬は小さく息をつく。 そして、駐車場を少し通り過ぎた場所にあるフェンスに横付けした。 「さっ、降りるぞ」 エンジンを止めると同時に彼が言った。
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