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和馬を見つめ微笑む、梨花の顔が瞼に浮かぶ。
梨花を見つめ微笑む、和馬の顔が瞼に浮かぶ。
二人の間に授かった新しい命・・・。
幸せそうに微笑み合う家族の姿が頭に浮かぶ。
どんなに嘆き泣き叫んでも、私の声は届かない。
変わらない現実。
変えられない未来。
もし、このまま和馬との関係を続けたらどうなる?
批難されるべき立場でありながら、罪の無い妻と子を羨み、妬む日々が続くのだろう。
僅かな幸福な時間と引き換えの、虚しさに堪える長い長い時間。
ベッドの上で膝を抱え、壁にもたれる。
手のひらに乗せたネックレスを見つめ、流しても流しても枯れぬ涙を指で拭った。
机の上には、画面の光が消えた開かれたままの携帯電話。
真っ暗な画面の下には、【明日、夕方迎えに行く。こっち出る時に電話するから】昼間届いた和馬からの文字。
今日…全てが終わる。
いっぱい考えた。
いっぱい泣いた。
…もう、けじめをつけなきゃ。
でも、私からサヨナラは言わない。
今度はあなたにけじめをつけて貰う。
私からではなく、和馬、あなたから。
私がもう二度とあなたに帰らぬように。
私自身の意志で、あなたに捨てられてみせる。
カーテンの隙間から、朝の光が見える。
私はうつ向いたままネックレスを握りしめ、その拳を額に当てる。
「今度こそ終わりにしなきゃ…今度こそ終わりにしなきゃ…」
閉じた瞳からぽたぽたと流れ落ちる涙をそのままに、私は呪文のようにその言葉を繰り返していた。
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