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翌日、和馬から電話が来たのは午後5時過ぎだった。
私と和馬は、病院から少し離れた薬局の駐車場で待ち合わせをした。
彼の車が駐車場に入ったと同時に、周りを気にしながら急いで車に乗り込む。
「今日は早朝出勤で頑張ったぞ。こんなに早く仕事引き上げたの何ヵ月ぶりだろ。綾子、今日はゆっくりしような」
私の横顔に柔らかな微笑みを向ける和馬。
「…うん。やっとゆっくり話ができるね。もう、会ってくれないかと思ってたよ」
小さく息を吐き、口端で笑みを作りあげ彼を見つめる。
「はぁ?そんな訳ないだろ。今まで会う時間を作れなかった嫌味は、後でゆっくり聞いてやるよ」
和馬はふっと軽く鼻で笑い、再びアクセルを踏み入れステアリングを切る。
座った助手席のシートに視線を落とす。
あの夜、ここに、このシートに梨花さんが…。
甦るあの光景。
甦るあの感情。
シートに乗せた手に力が入る。
無意識に押し寄せる感情のまま、指の腹をギュウッとシートに押し付けた。
「私、和馬にいっぱい話したい事あるんだ…。後でゆっくり聞いてね」
ドクドクと息苦しい鼓動が胸を叩く。
パっと椅子から手を離し、和馬に笑顔を向けた。
「だいぶ日が長くなって来たよな」
和馬は、視線を前方に置いたまま呟いた。
「そうだね」
私は、ピンク色に染まった空を眺め小さく言葉を返した。
「明日、綾子の勤務なんだっけ?」
イタリアンレストランで食事を終えた後、車に向かう和馬が煙草を吹かしながら問う。
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