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「…そんなにしたいんだ」
思わずこぼれた言葉は、嫌味の響きを持っていた。
「はい?好きな女と久しぶりに会えたんだ。そりゃしたいに決まってるだろ」
和馬は怪訝そうな顔でぴしゃりと言い放つ。
「…」
好きな女…。
唇をきつく閉じたまま、和馬の横顔を見つめる。
何度この横顔を見つめて来たのだろう。
愛しさで胸がトクンと甘い音を立てる。
切なさで胸がギュッと押し潰されそうに痛む。
和馬…。
彼の横顔から視線を逸らし、熱くなる瞼を閉じた。
引き返しちゃ駄目…流されちゃ駄目!
そう何度も自分に言い聞かせる程に、彼への想いが溢れ出す。
一緒に過ごした時間が思い出され、決意した心を揺さぶる。
…どうして?
別れを目の前にした途端、どうして幸せだった時間しか思いださないの?
未練がましい自分が情けない。…苦しい。
胸を押さえ、小さな深呼吸を繰り返す。
「…車、どこかに止めて。話したい事があるの」
涙を飲み込んだ喉の奥から、掠れた声を絞り出す。
「…」
和馬は黙って私に目を向けた。
伏せた横顔に彼の視線が突き刺さる。
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