「サヨナラ・・・」

6/19
前へ
/20ページ
次へ
「だから、今から話のできる場所に行くんだろ?今日は朝まで一緒にいよう。俺の方は大丈夫だから」 和馬は柔らかな笑みを見せ、フロントガラスに視線を戻す。 そして、膝に置いた私の手の上にそっと手のひらを重ねた。 彼の温もりを感じる指先が、ジンジンと痺れた感覚に包まれる。 「和馬お願い、どこかに車を止めて。駄目なの…私、ホテルには行けないの…ごめん…」 一つに重ねられた手を見つめ、途切れた言葉を並べる。 私の言葉で、彼の指が僅かな動きを見せる。 「わかった。そこの駐車場に止める」 少しの沈黙の後、和馬はそう言葉を返しウインカーを左に点滅させた。 車は本屋の駐車場に入り、車の少ない本屋の入り口から一番離れたフェンス側に車を止めた。 沈黙の続く車内。 小さく震える指。 唇をきつく噛み、ただうつ向く私。 車の窓ガラスを下ろす音と共に、「カチッ」とライターの音が重なって耳に届いた。 和馬は大きく煙草の煙を吐き出した後、一呼吸置く。 「…で?話したい事ってなに?」 沈黙を破る言葉を放つと、シートに大きくもたれ私を真っ直ぐに見つめた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加