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「だから、今から話のできる場所に行くんだろ?今日は朝まで一緒にいよう。俺の方は大丈夫だから」
和馬は柔らかな笑みを見せ、フロントガラスに視線を戻す。
そして、膝に置いた私の手の上にそっと手のひらを重ねた。
彼の温もりを感じる指先が、ジンジンと痺れた感覚に包まれる。
「和馬お願い、どこかに車を止めて。駄目なの…私、ホテルには行けないの…ごめん…」
一つに重ねられた手を見つめ、途切れた言葉を並べる。
私の言葉で、彼の指が僅かな動きを見せる。
「わかった。そこの駐車場に止める」
少しの沈黙の後、和馬はそう言葉を返しウインカーを左に点滅させた。
車は本屋の駐車場に入り、車の少ない本屋の入り口から一番離れたフェンス側に車を止めた。
沈黙の続く車内。
小さく震える指。
唇をきつく噛み、ただうつ向く私。
車の窓ガラスを下ろす音と共に、「カチッ」とライターの音が重なって耳に届いた。
和馬は大きく煙草の煙を吐き出した後、一呼吸置く。
「…で?話したい事ってなに?」
沈黙を破る言葉を放つと、シートに大きくもたれ私を真っ直ぐに見つめた。
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