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「もう、分かってるんでしょ? 私が聞きたいことが何か」
「…たぶんな」
和馬は、私に向けていた視線を車窓に移し小さく頷いた。
「和馬、私の口から言わせないで。あなたが伝えなきゃいけない事でしょ?あなたが…あなたが私に事実を受け入れさせて。…お願い」
言葉を連ねる語尾が喉元で掠れた。
熱くなる涙腺が我慢の限界を知らせる。
それでも涙を堪えようと、下唇をぐっと噛みしめた。
和馬の表情が曇る。
視線を足もとに落とし一点を見つめ続けている。
「…子供ができた」
彼の低い声が車内に響いた。
「…そう。今、何ヵ月?」
「5ヶ月…」
「5ヶ月…そうか、秋には産まれるんだね…赤ちゃん」
和馬の横顔を見つめる瞳から、涙が静かに頬を伝い流れ落ちた。
「…11月に産まれる」
和馬は気まずそうにぽつりと言葉を返す。
出産が11月。
子供ができたのは、1月か2月…やっぱり…。
「どうして?この前の電話の時にどうして教えてくれなかったの?隠し事は無いって言ってたのに」
涙を手のひらで拭い、声に力を入れて問う。
「あの時は、綾子が知ってるかの確信が無かった。俺から言うつもりは無かった。本当は、これからも言わずにおこうと思ってた…」
「どうして?そんなの隠し通せる訳がないでしょ?」
「隠し通さないとお前が苦しむだろ。俺の中では最初から綾子は特別な存在。
結婚しても、子供ができても俺は俺。このスタイルは変わらない。綾子を愛しいと想うこの気持ちは、今までと何も変わらない」
和馬は躊躇いもなくきっぱりと言い放った。
私は愕然として彼を見つめ返す。
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