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「ミチルも連れて来たかったよね・・・」
唯が水平線に顔を向けたまま呟く。
「そうだね、悪阻(つわり)が落ち着いて安定期に入ったら、また三人で来よう」
唯の背中を見上げ静かに言葉を返した。
ミチルは、現在妊娠6ヶ月。
4ヶ月前に妊娠が発覚し、今月の8月いっぱいで退職をする。
いわゆる「できちゃった婚」と言うやつだ。
子供の父親は二年間付き合った彼氏、やす君。
やす君はまだ大学生。
お金も無ければ父親になる心の準備などある訳が無かった。
ミチルの妊娠が分かった時、彼の動揺は相当なものだったらしい。
産むのか産まないのか…
ミチル自身も悩みに悩み抜いた末、彼と一緒に新しい命を守る道を選んだ。
経済的な面で産休まで働きたかったが、精神的なダメージが大きく、酷い悪阻で働ける状態では無くなってしまった。
「ミチル、やす君が側にいるから大丈夫だよね…」
唯は振り返り柔らかな笑みを見せた。
「うん、ミチルなら大丈夫でしょ。愛する人の子供を産むんだもん。どんな事があっても守っていかなきゃ」
足もとでは、押し寄せる波が細かな石を転がし海へと帰る。
・・・愛する人の子供か・・・。
私は視線を落としたまま、口端で小さく微笑んだ。
「…私、このまま女としても終わっちゃうのかも…」
うつ向いたままぽつりと呟きを落とす。
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