優しいkiss

4/20
前へ
/21ページ
次へ
私の言葉で、唯は水の中を歩く足取りを止めた。 「…生理のこと?」 膝を抱え砂の上にしゃがみ込む私を見下ろし、静かに唯が問う。 「うん…。オペしてもう半年以上経ってるのに、残った右の卵巣も沈黙したまんま。このまま一生、排卵が無いのかも」 顔を上げ、親友に苦し紛れの笑みを見せた。 正常な卵巣が残されているため、オペを終えて翌月か遅くても3ヶ月後には最初の月経が来ると伝えられていた。 しかし、オペから半年以上経った今もまだ月経が無い。 「先生には精神面の影響って言われてるんでしょ?」 「うん…そうみたい。体重もこの数ヶ月で5㎏減っちゃったしね」 「生理って精神面で影響受けやすいから…そんなに体重落ちたら尚更だよ」 唯は眉を寄せ、唇をきつく閉じた。 水音を立てながら砂浜に上がり、私の横にゆっくりと腰を下ろす。 「きっと、時間の流れが綾子を癒してくれるよ…」 膝を抱え目を伏せる私を見つめ、唯は優しく言葉をかける。 私は頭を起こし、太陽の光が反射する水面へと視線を戻した。 「私、和馬と別れたこと後悔してないよ。人を傷つけ、傷ついて…いっぱい悩んで、いっぱい泣いて…全てが終わってこうして一人になって、一人になったからこそ気づいたことがたくさんある…」 「…」 唯は私の横顔を見つめ、次の言葉を待ちながら小さく瞬きで頷いた。 私は潮の香りをゆっくりと吸い込み、言葉を続ける。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

407人が本棚に入れています
本棚に追加