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「私、卵巣を失った時思ったんだ。これは神様からの天罰なんだって。不幸な出来事があると『罰』だと思う。…それはきっと、自分が罪悪感から解放されたいからなんだね。『私はこうして罰を受けたんだから許してくれますよね?』って、自分をかばいたいから。…神様が与えた罰なんかじゃない。少しでも罪悪感から逃げたいがために、自分自身が心に与えた罰なんだ」
膝を抱え再び視線を落とす。
ジーンズの裾に付いた白い砂を指で払いながら、胸のうちに苦笑いをした。
「…綾子」
唯は掛ける言葉がみつからないのか、私の指をじっと見つめ口をつぐんだ。
「私、今でも思ってるよ。翔太、和馬、そして卵巣…全て失ったのは罰だって。だからと言って、自分のした事が許される訳じゃない。でもせめて、それで自分を納得させたいの。自分勝手で、馬鹿な自分への戒め。全て失わないと気づけないんだから、笑っちゃうよね」
心配そうに私を見つめる唯に目を向け、冗談めかして鼻先で笑う。
「自分への戒め…」
「そう、その戒めが、前に進む切っ掛けに繋がると信じてるから」
「自分を突き落として、あとは這い上がるしかない…てこと?」
「そう、底が無いとこまで落ちればあとは登るだけだからね」
「だったら、もう綾子は登り始めてるよ…前にちゃんと進んでる」
空元気とも言える私に、唯は穏やかな笑みを向ける。
「その髪…、綾子と付き合って10年になるけど、綾子のショートなんて初めて見た」
「うん、ずっと長かったからね。ここまで短く切るとは自分でも思いきったと驚いた」
以前の様に耳や頬に触れることも無く、軽々と風に揺られる髪を触った。
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