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「綾子が、あんなに大切にしてた髪を切るなんてね…」
「失恋すると髪を切りたくなる気持ち、初めて分かったよ。今までの自分を切り捨てたい…何かが変われる気がして女は髪を切るんだね。がらにもなくベタな事したって思ってるでしょ?」
私は親友をチラリと横目で見ながら苦笑いを溢す。
「ううん、そんな風に思わない。可愛いよ。お猿さんみたいで」
「お猿さん!?職場では、セクシーからキュートになったねって、結構評判良いんだけど」
「セクシーからキュートねぇー、まあ、そうしておくか」
唯は喉を鳴らし笑った。
足を伸ばし、波で濡れた砂浜に爪先で悪戯に線を描く。
「愛されるって…難しいね」
描いた線が波にのまれて消えて行くのを見届けながら、あてもなくぽつりとそう呟いた。
「…ん?」
唯は両手を後ろにつき、ぼんやりと海を眺めていた視線を私に移した。
「愛した人に同じように愛されるって、奇跡に近いのかも」
伸ばした爪先を、押し寄せる波が擽る。
「一緒に歩む、遠い未来まで見つめてくれる人に出逢えるのは、もっと奇跡なのかも知れない…」
私はそう言葉を連ねると、深いため息をついた。
指の間に入り込んだ砂がサラサラと流れ海へと帰る。
「…うん、そうだね、奇跡だね」
唯は投げ出した両足に視線を落とし、微かな相槌をうった。
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