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「私との将来を真剣に考えていてくれた翔太。私、本当に翔太に大切にされてたんだね…それなのに私は…」
唇を噛みしめ瞼を伏せる。
「…翔ちゃんの存在を失った事は後悔してる?」
唯は首を傾げ私の表情を窺う。
「存在を失ったのは自業自得。ただ…私、翔太に『ありがとう』の言葉を伝えてない。翔太と別れる時、心の準備もできないままで私、謝って泣きすがるだけのただの無様な女だったからな…」
「…」
「別れても、また翔太は私のところに帰って来てくれるような気がしてた。だから伝えられなかった。一番言わなくちゃいけなかった言葉を…」
込み上げる自責の思い。
「翔太からしてみたら、今さら謝られてもって話で、そんなの未練がましい自己満足に過ぎないんだけどね」
苦し紛れに冗談めかした笑みを作ってみせた。
「良かった…その言葉が聞けて」
唯が誰に聞かせるでもない小さな声を漏らした。
「え?…なに?」
波の音と、乾いた風に溶けてしまった友人の言葉を再度求める。
「ん?何でもない。それより、今何時だっけ?」
唯はふっと軽く微笑みながら後ろを振り返る。
砂浜に放りっぱなしにしていた小さなバッグに手を伸ばし、中から携帯を取り出した。
「何時?もう4時くらいになる?」
携帯を弄る唯に問い掛ける。
「うん、もうすぐ4時半…」
携帯に向かい親指で早打ちしながら答える唯。
「メール?」
「うん、直人」
「ふ~ん、今日、直人仕事だっけ?」
「うん…午前中だけね」
メールを打ち終わった唯は、そのまま携帯をバッグに入れ立ち上がる。
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