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「どうした?帰る?」
スカートの砂をはらう唯を見上げ問う。
「もう少しゆっくりしようよ。せっかく来たんだし。喉渇かない?私、飲み物買ってくる」
「あ、私も行くよ」
私も立ち上がろうと腰を浮かす。
「いいよ。綾子は一人で海を眺めて今の思いに黄昏てなさい。って、実は直人から電話の催促も来てるし」
唯は右手で「ごめん」の合図をした後、その手を振りながらにっこり笑った。
「あ~、なるほどね。ごゆっくり」
眉間にしわを寄せ、わざと不機嫌な顔をして見せる。
「ははっ!すぐ戻って来るからー」
唯はそう笑い飛ばすと、背を向け砂浜を歩いて行く。
こんな場所に一人でいろって?・・・あいつ、実は薄情な女だな。
親友の背中を眺め、冗談混じりのため息をつく。
周りを見回すと、家族連れやカップルの姿が疎らに見える。
数メートル離れた波打ち際では、二人の幼い子供が服の裾を濡らしながら、水飛沫を高く上げ走り回っている。
その後ろには、子供の姿を見つめながら笑い合う夫婦。
…まっ、いっか。
その穏やかな光景を眺めながら、苦笑いと共に再びその場に座り込んだ。
どこまでも続く水平線。
耳を擽る海風の音。
私は大きく息を吸い込み、立てた膝に頬をつけて目を閉じた。
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