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「私、綾子には感謝してるよ」
目を細めて唯が柔らかな笑みを向ける。
私は瞬きをし、黙って唯の笑みを見つめる。
「だって、私が前に進む切っ掛けを作ってくれたの綾子だもん。人間って、究極の状態に追い込まれないと答えが見えて来ない場合あるじゃない?」
「うん…それは分かる」
「だから、あれで良かったんだよ。あの時の私がいて、今の私がいるんだから。
綾子だってそう思ってるんでしょ?」
はしゃぎながら、川に向かって小石を投げる凛ちゃん。
唯は愛しそうに愛娘の後ろ姿を見つめる。
「うん…そう思う」
向かい合って楽しそうに石拾いをする、翔太と千咲の姿を眺め静かに頷いた。
「…和馬を、梨花さんから奪わなくて良かった」
千咲を見つめ唇を噛みしめた。
「…うん」
「今の自分からしたら凄く怖いよ……あの頃の私と言う女の存在が」
…大切な者を奪う
当たり前にある、今の生活を壊す存在が…。
「うん…私も怖い。あの頃の自分の存在が…。…さゆりさんの心の傷は、きっと今でも消えてない…。私、自分が犯したこの罪を今わの際まで忘れちゃいけないんだ…」
唯は目を伏せ口をつぐんだ。
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