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とりあえず、後ろの嘲笑は無視していると信久が見張りに話しかけた。
「そういえば君はゲームはやらないの?」
頭脳が十郎太並みとはいえ、犬とゲームしてどうするんだろうか。
「やりませんよ。
だいたい、犬の特性を生かした肉体なのにゲームなんか出来ませんよ。」
やっぱり見張りだよ…さしずめ警察犬か。
とことん効率に特化しているが少しアホっぽいと感じるのは気のせいか。
「いつも奈美や聡輔とばかりやっていたからな…たまにはお前とやってみたくって。」
出たよ、ゲームで分かりあうとか抜かすバトル狂が。
「奈美、君がカードを動かしてくれ。
護衛君は命令するだけでいいから。」
「えっ…。」
そこまでして戦いたいか。
「なっ?」
これ以上ない笑顔で同意を脅迫する。
こういう時の彼は状況を楽しんでいるのだと奈美は理解していた。
信久って、日常と非日常のどちらを楽しんでいるのだろうか?
いや、戦えるなら両方なのかもしれないが…。
普通の人間は日常がうざいから非日常のスリルにのめり込むものらしいけど。
だからこそゲームはこの世界に存在し、ゲームをこの世界から奪うことは出来ないと陽菜姉ちゃんは言っていた。
そもそもゲームや小説とは人間の願望だけが投影される世界。
日常生活において、人間が得ることが出来ないものだけがよせ集められて出来ている。
だからこそ、人間を魅了してやまない…人間を捕らえて離さない。
日常がクソだと思えるほどに。
これもまた奈美が教わった世界のひとつである。
奈美は理緒や陽菜からたくさんの世界を学んだのだ。
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