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「そんなもん、理由になるか。
負けない勝負があるわけないだろ。」
朱夏が臨戦体制。
そりゃそうだ…勝者と敗者がいなければそれは勝負ではない。
でも、勝者と違って敗者は己を失うのだ。
自分が信じていたものが壊れていく瞬間のおぞましさなど…奈美だって知っている。
満たされるとは、己と己が歩いた先にある未来を信じること…それもまたひとつだ。
「モット、モット、恨みガ欲シイ…モット、モット、仲間ガ欲シイ。」
怨念を満たすのは怨念だけ。
『そりゃ、強いあなたは自分の力でどこまでも歩いていけるわよ?
だけど、あなたが歩いてきた道に巻き込まれた私たちはどうなるの?
私はあなたとは違う…つまらない自己満足で他人の人生をかき乱さないで!
私はただ…静かに過ごしたいだけなのに…。』
中学生の頃、自分が傷つけた女の子のことを思い出す。
善意のつもりだった…だけど本人は昔の奈美のように生きられるほど強くはない。
弱い者は何も生み出せない。
強い者は何も残さない。
両者が向き合えば、争いにしかならない。
勝者と敗者は根本的なところから違うのだ。
それなのに、世の中にはどうして勝者と敗者がいるのだろう?
満たされる人間と、満たされない人間がいるのだろう?
あまりにも溝が深過ぎるんだから、考えたところで分かるはずはなかった。
分からないので、考えるのはやめた。
考えないこと…それもまた安息といえる。
考えるのはやめて、敗者になることで見えたこともたくさんあるからな。
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