新しい仲間

23/27
前へ
/733ページ
次へ
「そんなもん、理由になるか。 負けない勝負があるわけないだろ。」 朱夏が臨戦体制。 そりゃそうだ…勝者と敗者がいなければそれは勝負ではない。 でも、勝者と違って敗者は己を失うのだ。 自分が信じていたものが壊れていく瞬間のおぞましさなど…奈美だって知っている。 満たされるとは、己と己が歩いた先にある未来を信じること…それもまたひとつだ。 「モット、モット、恨みガ欲シイ…モット、モット、仲間ガ欲シイ。」 怨念を満たすのは怨念だけ。 『そりゃ、強いあなたは自分の力でどこまでも歩いていけるわよ? だけど、あなたが歩いてきた道に巻き込まれた私たちはどうなるの? 私はあなたとは違う…つまらない自己満足で他人の人生をかき乱さないで! 私はただ…静かに過ごしたいだけなのに…。』 中学生の頃、自分が傷つけた女の子のことを思い出す。 善意のつもりだった…だけど本人は昔の奈美のように生きられるほど強くはない。 弱い者は何も生み出せない。 強い者は何も残さない。 両者が向き合えば、争いにしかならない。 勝者と敗者は根本的なところから違うのだ。 それなのに、世の中にはどうして勝者と敗者がいるのだろう? 満たされる人間と、満たされない人間がいるのだろう? あまりにも溝が深過ぎるんだから、考えたところで分かるはずはなかった。 分からないので、考えるのはやめた。 考えないこと…それもまた安息といえる。 考えるのはやめて、敗者になることで見えたこともたくさんあるからな。
/733ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加