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奈美と信久がゲームセンターに立ち入りホフヌングバトルに興じていた頃。
尊栖坂の社では風音と本物の十郎太は、タンジーをひきつけるのに必死であったがそれどころではなかった。
家の一大事なのに、なぜか鍋を囲んで宴会。
くつくつと膤の塩鍋が煮立つ音がする…鍋が嫌いな風音は吐き気がした。
明海も一緒で、家族団らんに巻き込もうとしている。
尊栖坂桜規は古風な着物姿の風音と同じ亜麻色の髪の毛の体格の良い男性。
母の律乃は、明海に似ている大和撫子だが髪の毛が短い。
どちらも見た目は人当たりがいいが…腹を割って話してみるとそのズレた価値観にうんざりさせられる。
「ごめんなさいね、明海。
徐霊が立て込んでて。」
一応、仕事熱心な両親ではある…家に帰らない事が多いけど。
「一応、婚約者が来る日ぐらい帰って来てよ。」
明海は刺身に手をつける。
待ちきれないらしい。
「仕方ないだろ…大切な仕事なんだから。」
表向きは宗教家としての説法…裏では、陰陽師としての徐霊。
その実…本質は隠蔽工作用に何か脅迫用の家捜し。
超能力者の秘密は一朝一夕では収まらない、地道な裏工作によって守られている。
「誉雫でございます。
お久しぶりです、尊栖坂様夫妻。」
十郎太が深々と頭を下げる。
「ああ、写真を見た時よりずいぶん痩せたよね。
恋はやはり人を変えるというけど。」
中身が怨霊なのに、気づいてないのだろうか。
十郎太がうまくやっているのもあるのだろうが。
「それはそれは…。」
心にもないお世辞は出るし。
十郎太って、本当に優秀だよなと風音は思う。
「ところで、式はいつ挙げるのですか?」
律乃は結婚を急かす。
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