供養

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「風音、あんたバカ?」 一瞬にして緊張が走る。 「人間は無責任に怨念を垂れ流す…自分で自分の怨念を始末出来ない。 魔物のことなどまったく知らないうえに平和ボケしてて警戒心が無いから後先考えず、すぐに魔物と契約する。 事件後は記憶を消すから罪悪感も持たず…反省もしない。 自分で理由が分からないからいつまで経っても怨念というゴミを散らかして。 …挙げ句の果てには自分が怨霊に堕ちて助けてくれと泣きつくだけ。 そんな後始末のためのバカの不毛なゴミ掃除に何を期待しているの?」 記憶を消すのはそっちの事情だが。 人間の浅はかさと超能力者の事情で、実のところ防人としての仕事は永遠に終わらない。 もしも、人間がいなければ怨念もまた生まれないと考えているのなら。 任務にかこつけて人間を始末するという明海のやり方は、身勝手ながらもあながち間違ってはいないのだろう。 明海は人を始末するのに抵抗があったのだろうか。 許せはしないが、聞いてみないと分からないことはたくさんあると今さらながら思った。 「人間は…ゴミじゃない…。」 風音は声を絞り出した。 もともと契約もあって家族には逆らわなかったから、風音の抵抗は場を凍りつかせる。 「はぁ?」 防人として裏の世界で魔物のエサたる怨念を無尽蔵に吐き出す人間の闇ばかり見てきた明海は人間の善意なんか知らない。 表の世界でも絵馬を通して人の欲望しか見ていない体たらくである。 闇を見てないといつ襲われるか分からんと警戒してないといけないのは、戦士の性だ。 常に恨みを買う戦士は日常とて戦場なのである。 「やめなさい。」 だから風音の言葉を理解出来ないので、一発どつこうと思っていたが母が止めた。 もちろん、善意ではなく…単にうるさいだけだ。
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