供養

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「お母さん。」 明海が追撃の手を止めた。 まだやる気だったらしい。 「まったく、風音も明海も純粋すぎるのよ。」 ついでに言うと鍋を守りたい。 姉妹ゲンカで夕食が潰れてはかなわない。 「無知なアホには愛想笑いを浮かべておきながら、裏で家畜にしておけばいいの。 何も知らないし知ろうともしないんだから、哀れな家畜でいいじゃない。」 母からは、超能力者らしいアドバイスが飛び出す。 実際、超能力者の世界に関わろうとする人間は少ない…巻き込まれる人間は結構いるけど。 「…そうだぞ、明海。 人間は自分で自分を守れないクズのくせに偉そうに生命だけは語るんだから、笑いながら心の中でバカにしてやりなさい。」 父も母の言葉には賛同だ。 政略結婚とはいえ、さすが夫婦…息が合っている。 さすが破綻しきった尊栖坂の教育…このあたりも明海や風音にしっかり継承されている。 ハラワタが煮えくり返り、吐き気がする十郎太。 超能力者は秘密を守るためには何でもするが、ここまで露骨なのも珍しい。 (人間じゃないな…こいつらは…。 完全に人間としての倫理観が破壊されている。) 今さらだった。 こんな教育が代々身を守るすべとして、継承されていく。 だから超能力者は人間とは根本的に違うのだ。 怨霊に蔑まれる体たらく。 「でも、私たちは人間のために戦えることを誇りに…。」 風音は自分の考えを口にした。 ここにいる人間には通じないと分かっていても。 「風音…そんなバカなことに囚われているから何も出来ないのよ。 人間、すべてがきれいにまとまるわけがないんだから。」 このあたりは世間の荒波を越えた大人の意見だ。 若い風音にはまだ分からないかもしれない。
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