供養

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風音の中の深い闇を安らかな眠りに変える。 言の葉は強い。 「私は…私の望み…!」 ―私の…私の望みは…何よりも…誰よりも…!― 風音のアンノウンのカードのオネットが鈍く光る。 彼女の中の何かが激しく揺さぶられ…風音の中の何かが目覚めていく。 …おそらくそれは…。 そちらの方は後回しにして、彼らは夕食と治療を行うことにする。 これからかなりの戦だから。 でも、食わずにいたから慣れない習慣にはやはり抵抗はある。 せめて何か声をかけようとしたが、十郎太は携帯電話を開いていた。 「何してるの?」 分かりきったことを聞く。 「タンジーの仲間に計画の変更を伝えなくてはいけませんから…。」 本来は足止め用に目を逸らすため、尊栖坂の社の外に誘きだして一戦交える予定だった。 思ったより、血清の完成が遅れたためにこんな手段を取らねばならない。 今は巫女の安全が最優先である…奈美のチカラは戦局を一気に変えるのだ。 「何ですって? もう出陣した?」 その後、しばらくして…彼の顔が青ざめていく。 確かにゲームの情報を取り込んだ血気盛んな怨霊集団…いつまでも黙っていられるわけがないはずだ。 だが、今まで彼の言うことはそれなりに聞いてくれた者たちだ…何かある。 「…っ!?」 また、十郎太は目眩を引き起こす。 立ちくらみを起こし…がくりと膝をついた。 「十郎太くん?」 風音が十郎太を支え起こす。 まるで弱った病人を支えるように。 「触るなっ!」 彼の精神介入が切れる。 怨霊としてのチカラがすら弱っていくのだろうか。 とたんに沸き上がる恐怖。 失うことの恐怖…本来データにはあり得ない、無への抵抗だ。 「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!」 風音も引かない。 彼女は弱っていく怨霊にすら手を差しのべる。 人を喜びで満たすこと…それが彼女の生き甲斐なのだ。
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