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「あなたは別にタンジーに戻る必要は無いわよ。
あなたの生命はタンジーがいなくとも完全に尽きはしないわ…人間時代の怨霊のチカラが少しだけ残ってる。
もっとも、人間一人分ぐらいではタンジーのチカラと軍事力は得られないのだけど。
存在も希薄になっていくし、現実世界に干渉出来る肉体もないから。」
グシャッ!
オネットから光が放たれ、弱る十郎太を抑えつける。
潰されそうな圧力だが、潰すつもりは全くない。
強引で…一方的そのものだ。
ヲトメ十郎太とは比較にならないぐらいの禍つそのもの。
「ぐはっ!」
悲鳴が上がる。
「や、止め…!」
風音は聞いていられなかった。
バシュン!
止めようとして、カードに弾かれる。
彼女は優しい…優しすぎる。
「邪魔しないでよ…やっと私の願いが叶うんだから。」
怨霊の断末魔を聞く趣味は風音にはない。
禍つの考えが読みきれないのだが。
「あなたの願いって何なの?」
とりあえず聞いてみた。
自分なのに、多少他人事みたいな口調になってしまう。
「欲しいの。」
「きやっ!」
アンノウンから強い光が放たれる。
風音は思わず目をふさいだ。
オネットが自分で浮きあがる…もはや生き物だ。
「消えゆく魂は食らうことが希望…救うのが弔い。」
オネットの視線の先には、今にも意識を失いそうな彼がいる。
自分のすべてを否定した男…戻れない扉を開いてしまった男。
彼さえいなければ風音は自分の信じたい世界の中で自分を信じ…無償の愛を振り撒き…生きていられた。
もう、彼女は自分を信じて生きていられない。
すべてはあの河原での失態と…それを償うために手を汚した自分。
どんな誇りや信念も計略の前には無意味だと知ったのだ。
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