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十郎太は尊栖坂の肉体が手に入るなら、この状況も悪くない。
そのために薬を使った。
だが、自分の精神力が抜かれてしまっては彼女を操るチカラは残っていない。
そもそも精神介入はタンジーのチカラなのだ。
とはいえ、絶望はしていない…チカラが無くても彼には知恵がある。
幸い、自分にオネットの気持ちが向いてくれるなら扱いやすいものだが…気がかりなのは風音の方だ。
オネットはもともと風音が抑圧した願望。
オネットの生命を分けてもらえば、風音とさらに深く関わることになるわけだが…彼女の考えが時々怖くなる。
彼女が自分のすべてを食らってしまいそうな気がして。
だいたい、風音は何をもって自分を助けるつもりか…防人としての使命か、それとも他に理由があるのか。
理由があるなら確かめたい…これもまたひとつのチャンスだろう。
しかし、そんなことも言っていられない…彼には時間がないのだ。
今でさえ取り込まれる寸前なのだから、悠長に考えているヒマはない。
自分を支える生命が変わるだけ…失った者である彼には何も失うものがなかった。
だったら、攻めるしかない。
アンノウンから風音そっくりな黄金の上半身が生える。
神の血のチカラで具現化した呪いである。
彼女が引きずり出した十郎太を愛しげに抱きしめる。
ズブリ、ズブリと自分の存在が彼女に溶けていく感触がやたらおぞましいのに…意識が朦朧としているせいか失った母親の抱擁のような感覚に感じる。
やはり、自分はどこか狂っているなと思った。
彼は利用出来るものはなるべく利用する主義だが、まさかカタキの妹に対してこんな幸福感を得るなど思っていなかった。
カタキに近づきやすくなったせいか、自分を救ったオラクルの記憶が残っているせいか。
結局は自分も甘かったなと自嘲的に含み笑い…風音に視線を向けた。
「そんな…今、何て…?」
ほんの少しだけ…聞こえていたのだろうか?
誰よりお前が大嫌いだったと声にもならない呟きを漏らしていたのが。
その後、風音の健闘も虚しく十郎太はアンノウンに飲み込まれ…空になった玖雀の肉体だけが残った。
自分の中にある独善的な禍つを突きつけられた風音はそれに耐えきれず…変えられない微笑みを浮かべ…床に膝をついた。
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