供養

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普通の女の子ならこんなとき…故人を偲んで疲れるまで泣くんだろうな。 不意に、風音は思う。 だが、風音は泣けない…いくら失っても誰かのために泣いてあげる事が出来ない。 彼女は基本的に泣けないのだ。 戦士として戦わなくてはならない彼女は、いくら辛くても泣けない環境に生きている。 だから、風音は誤解される…悲しみが顔に出せないから。 理解されないから…誤解を生むから。 「風音、一体何があったの?」 そのうえ、今もまた泣いていられない環境にいる。 騒ぎをようやく聞きつけた家族が乗り込んできたのだ。 てか、防人なのにこれだけ騒いで気づかないのは酒盛りが先なのだろうか? いや、十郎太のことだから夕食の鍋に何か仕込んだかもしれない。 それで彼の思念がオネットに飲まれたため、家族が我に返ったというのが正しい見方だろう。 結局は、強引な家族と家庭に愛想をつかし止めようとしなかった風音の責任なのだ。 実のところ、私は何をしたいんだろうか? ここまでの被害を出しておいて風音は自問自答する。 彼女は陰陽師の世界を変えたいとは願っている。 だが、何をして良いのか分からない。 下手に秘密をバラして、取り返しがつかないことになっては困る。 しかし、陰陽師が裏の職業である以上誤解や冤罪の原因になりかねない。 なまじ知らないと危機意識もなく、知らぬ間に巻き込まれる奴もいる。 分かっているのだ…でも、その先が見えない…。 奈美やこのみあたりに相談しておけば良かったとも思うが…防人のことはなるべくなら自分でカタをつけたいのも本心だ。 風音は防人であることが好きだから、あまり他人任せにはしたくない。 でも、それも一方的だ…陰陽師が一般人の事情なんか知るわけがない。 事情を知っていたら人を殺してまで秘密を守ろうとはしないだろう。 一般人と陰陽師は背負うものが違うから感じている生命の重さは違うのだ。
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