一四年前

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 妻を殺されたコメディアン西園寺祐司は、それまで出演していたバラエティ番組から全て降板した。  評論家は、このときが俳優西園寺祐司の誕生だと述べた。  妻と子が誘拐され、妻を殺されたコメディアンを見て誰が笑えるというのか。  人生を笑いにかけてきたはずの西園寺祐司は、人生を奪われた俳優になった。まだまだ笑いをやりたかったけど世間はそれを許さなかった。俳優として、悲しい演技をする姿ならば世間が許してくれた。  そして、誘拐され、自身の命は取り留めたものの、母を目の前で殺された二歳の少年は、和美とはまた違った形でテレビカメラに追いかけられ続け、気がついたときには二世タレントとしてテレビに出るようになっていた。
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