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ミラナと男は博物館を出てすぐのところにある、こじんまりしたレストランに入っていた。
車はまだ駐車場に置いたままだ。
男の名前はアリというらしい。彼の祖母がつけたんだそうだ。
ミラナも聞かれたので名前はジゼルだと言った。
アリは柔らかく微笑む。
「可愛らしい名前だ、ジゼル」
「ありがとう」
「なにか頼む?」
「じゃあサンドウィッチを。
……ねぇなんで私に話しかけたの?」
私がウェイターに注文すると、アリも同じものを頼んでからこちらを振り返った。
「君がとてもキレイだから。思わず話しかけてた」
口説くようなセリフと共に、こちらをふわっと見つめている。
彼の金色のまつ毛がキラキラ光ってる。朗らかな彼に怪しさは欠片もない。
「じゃあ、話の続きをしましょうか」
「ん、あの指輪はエメラルドカットがいいって話?別に本気じゃないさ。君が結構気に入ってたみたいだから横やり入れただけ」
「………」
ふーん。
この男ーーアリは私の反応を見て楽しんでたわけね。意地の悪い…。
運ばれて来たランチを食べながら、アリは話を続けた。
「僕もあのブリリアントカットは気に入っている。ルビーがよく映えるからね。だから今度似たようなものを作らせようと思ってる」
「…あの博物館から買い取ったりは出来ないの?」
不思議に思ったので聞いて見た。
ーー私なら盗っちゃうけど
「難しいかな…。金額はたいしたことないんだろうけど売ってくれない。他の方法もないことはないけど」
あの指輪の金額を対したことない、だなんて。
どこのお金持ちよ、まったく。
「残念ね…。私も欲しかった」
「どんな方法か、聞きたくない?」
「なに?」
するとアリは真面目な顔を作って身を乗り出し、小声で囁く。
「博物館に忍び込んで、盗んで来るのさ」
思わずミラナは目を見張った。
「なんてね!びっくりした?」
そんなミラナにアリはいたずらっ子の笑みでからから笑って満足気にしている。
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